KNOWLEDGE / 2026.10.30
系統用蓄電池と需給調整市場|5つの商品と応札までの進め方

系統用蓄電池の収益は、電気を売ることだけから生まれるわけではありません。一般送配電事業者が「いざというときに出力を調整できる力」を買い取る需給調整市場では、約定した時間帯に待機していること自体に対価が支払われます。応動の速さが求められる商品ほど蓄電池の強みが生きるため、この市場は蓄電所の収益計画の中心に置かれることが多い市場です。
本稿では、需給調整市場の仕組みと5つの商品の違い、収益の形、参加までの進め方、容量市場との使い分けを整理します。特に、取引されるのは電力量(kWh)ではなく調整力(ΔkW)である点が、この市場を理解する出発点です。
目次
- 需給調整市場は「待機する力」を買う市場
- 商品は5つ|応動の速さで一次から三次②まで
- 収益はΔkW対価と電力量の精算の2層構造
- 参加までの進め方|資格・契約・計測と通信
- 容量市場との使い分けと、併用できない時間の管理
- よくある質問
- まとめ:商品選びは設備の応動性能から逆算する
需給調整市場は「待機する力」を買う市場
需給調整市場は、一般送配電事業者が、周波数制御と需給バランスの調整に必要な調整力を、発電事業者や蓄電池事業者などから調達する市場です。運営は電力需給調整力取引所(EPRX)が担います。市場は2021年4月に三次調整力②から始まり、2024年4月に一次調整力を含む全商品の取引がそろいました。
買い手である一般送配電事業者は、需要と供給の計画と実績の差、再生可能エネルギーの予測誤差、30分より短い時間の需給変動に対応するため、あらかじめ調整力を確保しておく必要があります。売り手は、指定された時間帯に、指定された出力を出せる(または需要を調整できる)状態で待機し、指令があれば応動します。実際に放電しなかった時間帯でも、約定していれば待機の対価が支払われるのが、この市場の大きな特徴です。
蓄電池は、充電と放電を瞬時に切り替えられ、応動の速さで火力発電などを上回ります。そのため、応動が速い商品ほど蓄電池の約定が目立ちます。一方で、市場の取引規程や商品要件は見直しが続いており、取引単位やスケジュール、上限価格の扱いは年度で変わることがあります。参加を検討する段階では、最新の取引規程とエリアの募集要項を確認することが前提になります。
商品は5つ|応動の速さで一次から三次②まで
商品は、応動時間(指令や周波数の変化に対して、求められた出力に達するまでの速さ)と継続時間で分かれています。代表的な要件は次の表のとおりです。
| 商品 | 主な役割 | 応動時間 | 継続時間 |
|---|---|---|---|
| 一次調整力 | 周波数の変動に設備が自律的に応動する(GF機能) | 10秒以内 | 5分以上 |
| 二次調整力① | 中央給電指令所からの信号に応動する(LFC) | 5分以内 | 30分以上 |
| 二次調整力② | 需給計画にもとづく指令に応動する(EDC) | 5分以内 | 30分以上 |
| 三次調整力① | 出力変化速度の緩やかな電源等の代替として指令に応動する(EDC) | 45分以内 | 商品の取引単位(3時間) |
| 三次調整力② | 前日に予測できなかった再生可能エネルギーの誤差等に対応する | 45分以内 | 商品の取引単位(3時間) |
一次調整力は、周波数の変化を設備自身が検知して自動で出力を変える商品で、応動の速さが最も厳しく求められます。蓄電池はこの分野で強みを発揮しますが、求められる継続時間は短く、SOC(充電率)を保ちながら周波数の上下両方向に応えられる運用設計が必要です。二次調整力は給電指令への応動、三次調整力は比較的長い時間の需給調整を担います。
どの商品に応札できるかは、設備の出力・容量・応動性能と、計測・通信の方式で決まります。応札量の下限は原則1,000kW(1MW)とされており、小規模な設備は単独では参加できず、アグリゲーターに束ねてもらう形が現実的です。系統用蓄電池のアグリゲーターの選び方の記事でも紹介しましたが、束ねてもらう場合は、手数料の内訳と、指令への応動責任の分担を契約前に確認します。

収益はΔkW対価と電力量の精算の2層構造
収益の形は2層になっています。第一層は、約定した調整力への対価(ΔkW対価)です。応札した価格と量で約定すれば、対象時間帯に待機していたことへの支払いが発生します。第二層は、実際に指令を受けて充放電した電力量の精算です。放電した電気は卸電力市場の価格などにもとづいて精算され、充電に使った電気の調達コストと差し引きます。なお、具体的な物件の規模や立地の条件は、ENERGY BANKの物件一覧で並べて確認できます。
この構造のため、収益の見通しは「約定価格×約定量」だけでなく、指令の頻度、充放電の効率、充電コストで変わります。系統用蓄電池の充電コストを読むの記事でも紹介しましたが、充電の調達契約と託送料金の置き方が、第二層の採算を左右します。収支計画では、ΔkW対価を土台の収益、電力量の精算を変動分として分けて見積もるのが実務的です。
注意点として、約定したにもかかわらず指令に応動できなかった場合は、アセスメントによって対価が減額されることがあります。設備の停止や通信の不具合は、単なる機会損失ではなく減額の対象になり得ます。保守体制と監視体制は、収益を守るための仕組みとして位置づけます。
応札価格の決め方も実務の論点です。蓄電池を需給調整市場に待機させるということは、その時間帯を卸電力市場での売買に使わないということです。つまり、応札の価格には「ほかの市場で得られたはずの収益(機会費用)」と、待機のためにSOCを適正範囲に保つコストが反映されます。卸価格が高い時間帯ほど、需給調整市場への応札価格も高く置かなければ採算が合いません。日々の運用では、卸電力市場の価格見通しと並べて応札を判断する体制が必要です。あわせて、エリアごとの約定価格の水準は需給で変動し、上限価格の見直しも行われてきたため、参入時の単価が長期に続く前提で収支を固定しないことが、計画の健全さを保ちます。なお、個別の条件の整理や進め方は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。

参加までの進め方|資格・契約・計測と通信
参加までの進め方は、おおむね次の順序です。①市場の取引規程を確認し、応札する商品とエリアを決める、②取引参加の資格・手続きを進める、③一般送配電事業者との間で、調整力の供出に関する契約や技術要件の確認を行う、④計測設備と通信回線(専用線や簡易指令システムなど、商品に応じた方式)を整える、⑤試験や事前審査を経て、応札を開始する、という流れです。
設備側の準備で見落とされやすいのが、計測と通信です。応動の速さを証明し、実績を記録するには、商品ごとに求められる計測の精度と間隔、通信方式を満たす必要があります。PCSやEMS(エネルギーマネジメントシステム)の選定段階で、参加したい商品の要件に合うかを確認しておかないと、運転開始後に追加投資が発生します。
もう一つ、参加前の審査と試験の期間も工程に入れておきます。応札を始めるまでには、設備の応動性能の確認や、指令系統の接続試験などが必要になる場合があり、書類の手続きだけで終わるわけではありません。運転開始の時期から逆算し、市場参加の準備を設備の試運転と並行して進めることが、収益化の遅れを防ぎます。特に一次調整力のように応動性能そのものが商品価値になる市場では、試験で確認された性能が、そのまま応札できる商品の範囲を決めます。
自社で参加するか、アグリゲーター経由にするかの判断もこの段階で行います。自社参加は手数料が不要な一方、応札の運用、SOC管理、アセスメント対応を自社で担います。経由参加は運用を任せられる反面、手数料と情報の見え方が論点になります。設備の規模(1MW以上かどうか)と社内の運用体制で切り分けます。具体的な物件で運用体制まで含めて検討する場合は、ENERGY BANKの物件一覧で規模や立地の条件を並べて確認できます。
容量市場との使い分けと、併用できない時間の管理
蓄電池の収益市場は、需給調整市場のほかに容量市場と卸電力市場があります。系統用蓄電池と容量市場オークションの見方の記事でも紹介しましたが、容量市場は将来の供給力(kW)を確保する市場で、メインオークションで約定すると、対象年度に発動指令への応動などの義務を負う代わりに容量確保契約金額を受け取ります。
3つの市場は、同じ設備・同じ時間帯を二重に使うことができません。容量市場で約定した時間帯の運用、需給調整市場で約定した時間帯の待機、卸電力市場での売買は、相互に競合します。実務では、年間を通じてどの市場にどの時間帯を割り当てるかの運用計画を先に決め、日々の運用はその枠内で調整します。価格の高い市場へ寄せるだけではなく、アセスメントや発動指令への応動義務との兼ね合いで、無理のない配分にすることが、減額を避けるうえでも大切です。
また、需給調整市場の募集量や価格はエリアごとに大きく異なります。同じ設備でも、エリアが違えば約定のしやすさと単価は変わります。用地選定の段階で、エリアごとの市場の状況を織り込むことが、立地判断の精度を上げます。

よくある質問
需給調整市場に参加するには最低どのくらいの規模が必要ですか?
応札量の下限は原則1,000kW(1MW)です。これに満たない設備は、アグリゲーターが複数の設備を束ねる形で参加する方法があります。商品や参加方式によって要件が異なるため、最新の取引規程で確認してください。
待機しているだけで本当に収益になりますか?
約定した時間帯については、実際に指令が出なくても、待機の対価(ΔkW対価)が支払われる仕組みです。ただし、指令に応動できなかった場合はアセスメントで対価が減額されることがあります。
容量市場と需給調整市場は同時に使えますか?
同じ時間帯に同じ容量を二重に約定させることはできません。年間・月間の運用計画で、時間帯ごとに割り当てる市場を決めて運用します。どちらの市場にも約定していない時間帯は、卸電力市場での取引に回せます。
一次調整力はなぜ蓄電池向きと言われるのですか?
一次調整力は周波数の変化に10秒以内で自律応動することが求められ、充放電の切り替えが瞬時にできる蓄電池の特性と合うためです。一方で、SOCを適正な範囲に保ち続ける運用設計が前提になります。
まとめ:商品選びは設備の応動性能から逆算する
需給調整市場の要点は、①取引されるのは電力量ではなく調整力(ΔkW)で、待機自体に対価が付く、②商品は応動の速さで一次から三次②までの5つに分かれ、設備の性能で応札できる商品が決まる、③収益はΔkW対価と電力量精算の2層構造で、応動できないと減額がある、④容量市場・卸電力市場とは時間帯の割り当てで使い分ける、の4点です。設備の仕様を固める前に、参加したい商品の要件を確認しておくことが、後の追加投資を防ぎます。市場参加の進め方や設備条件の整理は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。
出典
需給調整市場の検討・詳細設計|電力広域的運営推進機関(OCCTO)
https://www.occto.or.jp/gyomusyokai/no3.html
需給調整市場について|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/stable_power_supply_wg/pdf/001_08_00.pdf
エネルギー動向(需給調整市場)|資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/energytrends/202506/html/s-1-4.html
本記事は情報提供を目的としており、投資成果を保証するものではありません。最終的な判断は、個別資料と専門家への相談を踏まえて行ってください。
