KNOWLEDGE / 2026.11.02
長期脱炭素電源オークションと系統用蓄電池|20年の容量収入の仕組みと応札前の確認点

系統用蓄電池の事業計画を立てるとき、収益が市場価格に左右されて読みにくい、と感じる法人の方は多いはずです。その読みにくさを和らげる仕組みとして設けられたのが、長期脱炭素電源オークションです。筆者は、この制度を「蓄電池の収入に、長期の土台をつくる制度」と捉えています。
ただし、誰でも使える制度ではありません。応札には要件があり、落札できるかどうかは入札の結果しだいです。本稿では、法人・投資家の方が事業判断に使えるよう、制度の仕組みと、応札前後の実務上の確認点を整理します。
長期脱炭素電源オークションとは
資源エネルギー庁の資料によると、この制度は脱炭素電源への新規投資を対象にした入札制度です。2023年度から始まり、初回の応札は2024年1月に行われました。LNG専焼、蓄電池、水素・アンモニアなど、電源種を混合して入札する点が特徴です。
落札した電源は、固定費水準の容量収入を原則20年間得られます。大きな初期投資を回収する見通しに、長期の予見性を与えることが狙いです。蓄電池は市場取引だけだと収益が読みにくいため、この点が事業判断に与える影響は小さくありません。
蓄電池事業での位置づけ:市場収益との役割分担
蓄電池の収益源は、卸電力市場での価格差、需給調整市場での調整力の提供、そして容量に対する対価の三つに大きく分けられます。長期脱炭素電源オークションでの収入は、このうち容量に対する対価の一種で、設備の固定費を回収する土台の役割を担います。
市場での運用は、その土台の上で、どこまで上積みを狙うかという話になります。ただし前述のとおり、市場収益の大半は還付の対象です。そのため、市場運用に力を入れる意味は、収益の最大化というより、制度の枠組みで求められる運用を安定して続けることに近くなります。
筆者は、この制度を使う案件では、土台となる収入と、市場での運用を分けて事業計画を組むことをおすすめしています。二つを混ぜて試算すると、還付の影響を見落とし、収益を実態より大きく見積もってしまうおそれがあるためです。
資金調達の場面でも、長期の収入が契約で裏付けられているかどうかは、評価の重要な要素になると考えられます。資金調達の実際は、別の記事で整理します。
応札する事業者に求められる体制
応札は、設備を用意すれば足りる手続きではありません。事業の実現性を示すため、用地、系統接続の見通し、資金計画、運営体制が整っていることが求められると考えられます。
社内の体制では、制度の担当者を決めておくことが有効です。募集要綱、約款、監視のガイドラインは、改定が続きます。最新の内容を追い、社内に共有する役割が必要です。
外部の専門家との連携も欠かせません。弁護士、税理士、技術の専門家など、必要な知見を持つ人材を、応札の準備段階から巻き込んでおくと、手戻りが減ります。
準備の期間は短くありません。公表された日程から逆算し、必要な資料の作成と、社内の承認の時期を、早めに決めておきましょう。
収入の仕組み:落札価格から還付する収益を引く

制度での収入は「落札価格-還付する収益」と整理されています。資源エネルギー庁の資料では、卸電力市場や非化石価値取引市場などで得た収益のうち、約9割を還付する仕組みとされています。
ここで押さえたいのは、容量収入は市場収益に単純に上乗せされるものではない、という点です。市場で大きく稼いでも、その大半は還付の対象になります。一方で、市場収益が振るわない年でも、容量収入という土台は残ります。上振れを狙う制度というより、下振れに備える制度と読むと、事業計画での位置づけが整理しやすくなります。
落札価格の水準や還付額の計算方法は、募集要綱と容量確保契約約款に定められています。事業計画に数値を入れる際は、応札年度ごとの最新の公表資料で必ず確認してください。
これまでの入札で、蓄電池はどう扱われたか

資源エネルギー庁の資料では、第1回入札(2024年1月実施、同年4月に結果公表)で、脱炭素電源の募集量400万kWのうち、蓄電池は109.2万kWが落札されました。蓄電池が、この制度の主要な担い手の一つになったことがわかります。なお、具体的な物件の規模や立地の条件は、ENERGY BANKの物件一覧で並べて確認できます。
第3回入札は、2026年1月19日から26日にかけて応札が行われました。2026年3月時点の資料では、電力・ガス取引監視等委員会が応札価格を監視している段階とされています。その後、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2026年5月13日に、2025年度分の約定結果を公表しました。個々の案件の規模や落札価格は、OCCTOの公表資料で確認が必要です。
回を重ねて強まる蓄電池向けの要件
制度は固定されたものではなく、回ごとに見直されています。資源エネルギー庁の資料では、第3回の蓄電池について、サイバーセキュリティ(JC-STAR)の強化と、セルの供給源を分散する措置が講じられたとされています。セル製造国の30%制限ルールも導入されました。
さらに第4回に向けては、経済安全保障推進法の供給確保計画の認定を受けたメーカーのセルを使う案件を優先して約定させる案が示されています。この案は検討段階の資料に基づくもので、最終的な内容は募集要綱で確認する必要があります。なお、個別の条件の整理や進め方は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。
サイバーセキュリティが要件に入った点は、運用段階の備えにも直結します。系統用蓄電池のサイバーセキュリティの記事でも紹介しましたが、遠隔監視と制御システムの守りは、制度への適合だけでなく、事業を安定して続けるためにも欠かせません。
応札前に確認したい4つの論点

第一に、系統接続の見通しです。落札しても接続できなければ事業は進みません。接続検討の記事で紹介した申込みから連系承諾までの流れと期間を、応札のスケジュールと重ねて確認する必要があります。
なお、個別の条件の整理や進め方は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。
第二に、20年という長さです。容量収入が20年続く前提で、蓄電池の劣化、交換、保守の費用をどう見込むかが問われます。長期の運用を前提にした保守体制と、メーカーの保証の範囲を、事前に整理しておくことが大切です。なお、個別の条件の整理や進め方は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。
第三に、市場収益の扱いです。還付の対象となる収益の範囲や、監視のルールは見直しが続いています。同じ資料では、電力・ガス取引監視等委員会の建議を受けて、監視ガイドラインの改定案が示されています。運用方針を決める際は、最新のガイドラインに照らして確認してください。なお、個別の条件の整理や進め方は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。
第四に、調達するセルの条件です。製造国の制限や、供給確保計画の認定の有無が、機器選定に影響する可能性があります。メーカー比較の段階から、制度の要件を意識して進めることをおすすめします。
買い手・投資家が案件を見るときの視点
すでに落札した案件への出資や、事業の取得を検討する場合は、見るべき点が変わります。容量確保契約の内容、運転開始までの期限、要件への適合状況を確認することが、まず必要です。
契約の承継が可能か、承継にどのような手続きが要るかも、案件ごとに異なります。事業譲渡とデューデリジェンスの記事で整理した確認項目は、落札案件の取得でもそのまま使えます。落札という事実だけで判断せず、条件を一つずつ確かめる姿勢が重要です。
応札から運転開始までの時間軸
制度の時間軸を、案件の工程に重ねて把握しておくことも大切です。法律事務所の解説では、約定結果の公表は、応札の受付期間が終わってから3か月後を目途とされています。実際に、第1回は2024年1月に応札が行われ、同年4月に結果が公表されました。
落札したあとは、設備の調達、工事、系統への連系を経て、運転開始に至ります。運転開始までの期限は容量確保契約の中で定められるため、機器の納期や工事の遅れが、そのまま契約上のリスクになります。
設備の調達では、納期が長引く可能性を織り込む必要があります。一括発注・分離発注の記事で整理したとおり、発注の方式によって、遅れが生じたときの責任の所在が変わります。応札の段階から調達の方式まで見据えておくと、落札後の手戻りを減らせます。
第3回のように、応札の前に事前のプロセスが設けられる場合もあります。公表されたスケジュールを、社内の意思決定の日程に落とし込み、いつまでに何を決めるのかを、早めに整理してください。
売買や譲渡の対象となる蓄電所の情報は、物件一覧ページでご確認いただけます。制度を使った案件かどうかも、比較の軸の一つになります。
制度は「万能の保証」ではない
最後に、注意点をお伝えします。容量収入が得られても、事業のリスクがなくなるわけではありません。市場収益の変動、設備の故障、系統側の制約、制度の見直しなど、事業者が向き合う不確実性は残ります。
また、応札には準備に時間がかかり、落札できない場合もあります。落札を前提にした資金計画は危険です。落札できなかった場合の事業の進め方も、あらかじめ想定しておくことをおすすめします。
落札できなかった場合の選択肢
落札できなかった場合の選択肢は、いくつかあります。一つは、翌年度以降の入札に、条件を見直して再び応札する方法です。もう一つは、制度に頼らず、市場取引を中心とする事業として進める方法です。後者の場合、収益は市場の価格に左右されるため、保守的な試算でも事業が成り立つかを確認する必要があります。
蓄電池が参加できる市場は複数あります。どの市場に、どの程度の容量を振り向けるかは、事業者の運用方針によって変わります。落札できなかったときの計画を、応札の前から用意しておけば、結果に左右されにくい事業になります。
制度を使うか使わないかは、事業の規模や、自社の財務の体力によっても異なります。判断に迷うときは、専門家へ相談しながら、複数のシナリオを比べて決めてください。
出資を検討する投資家の視点
出資を検討する投資家にとっては、容量収入が収益の土台になる点が魅力です。ただし、土台があっても、事業の収益がそのまま出資者に届くわけではありません。
運営費、融資の返済、保守の積立などを差し引いたあとの分配が、出資者の取り分になります。差し引かれる項目と、その見通しを、事業計画で確認してください。
20年という長さは、出資の回収期間にも影響します。途中で出資を売却できるのか、事業を譲渡する場合の手続きはどうなるのかも、あらかじめ確認しておくと安心です。
なお、制度の対象や条件は、募集要綱が公表されるたびに更新されます。本稿の内容は、執筆時点で公表されている資料に基づくため、実際に応札を検討する際は、必ず最新の資料で確かめてください。
また、制度を活用するかどうかは、事業全体の方針の中で決めるものです。設備、用地、資金、運用の各要素を総合的に見て、制度の利用が自社にとって最適かを判断することが、結果として事業の安定につながります。
まとめ
長期脱炭素電源オークションは、蓄電池に原則20年の容量収入をもたらす可能性がある制度です。一方で、市場収益の大半は還付され、要件も回ごとに変わります。応札前には、系統接続、20年の運用体制、市場収益の扱い、セルの条件の四点を確認してください。制度の内容は更新が続くため、最終的な判断は最新の募集要綱とOCCTOの公表資料に基づいて行うことが大切です。なお、個別の条件の整理や進め方は、ENERGY BANKの専門スタッフに相談して進めることもできます。
出典
「長期脱炭素電源オークション」とは?|資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/decarbonization_auction2026.html
容量市場 長期脱炭素電源オークション募集要綱|電力広域的運営推進機関(OCCTO)
https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/jitsujukyukanren/files/250903_boshuyoukou_long_2025.pdf
長期脱炭素電源オークションの制度詳細について|電力広域的運営推進機関(OCCTO)
https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/202509_youryou_syousaisetsumei_long.pdf
本記事は情報提供を目的としており、投資成果を保証するものではありません。最終的な判断は、個別資料と専門家への相談を踏まえて行ってください。
